「外に出たほうがいい」と頭ではわかっているのに、体が動かない。
何度もそう感じてきた人は、決して少なくありません。
働くことや社会に出ること以前に、まず“外へ出る”こと自体が大きな壁になっている。そんな状態の中で、「ゲームを活用した外出支援」という言葉を見かけ、半信半疑で検索した方もいるのではないでしょうか。
ゲームと外出支援。一見すると軽く聞こえるかもしれませんが、実はこの組み合わせには、無理なく社会との接点を取り戻すための重要なヒントが隠されています。
ただし、それは「楽しいから来てね」という話ではありません。
本当に大切なのは、なぜゲームが外出のきっかけになり得るのか、そしてそれが将来にどうつながっていくのかという視点です。
この記事では、就労継続支援B型という枠組みの中で考える「ゲーム外出支援」の本質を、専門用語を使わず、わかりやすく整理していきます。
「今の自分でも大丈夫かもしれない」
そう感じられるヒントを、ここから一緒に探していきましょう。
「外出しなきゃ」と思うほど動けなくなる理由
外に出られない状態が続くと、「このままじゃいけない」「何か始めなきゃ」という気持ちだけが先に強くなります。けれど実際には、その思いとは裏腹に体が動かず、自己嫌悪だけが積み重なっていく。ここで大切なのは、外出できない原因を“性格”や“意志の弱さ”で片づけないことです。外に出られなくなる背景には、はっきりとした理由があります。
「やる気がない」のではなく、心と行動が噛み合っていない
「外出できないのは、やる気が足りないから」と思われがちですが、実際はその逆で、気持ちが先走りすぎて行動が追いつかなくなっているケースが多く見られます。頭では必要性を理解しているのに、最初の一歩がどうしても重くなる状態です。
まず、目的が大きすぎると人は動けなくなります。「外に出て、働いて、ちゃんとしなきゃ」という一連の流れを一気に思い描くほど、失敗のイメージも同時に膨らみ、脳がブレーキをかけてしまいます。心理学の分野でも、目標が抽象的で大きいほど行動開始率が下がることはよく知られています。
次に、成功体験の空白期間が影響します。外出や就労がうまくいかなかった経験が続くと、「どうせ今回も同じだろう」という予測が無意識に働きます。これは怠けではなく、過去の経験から身を守ろうとする自然な反応です。
さらに、外出そのものが評価や比較と結びついている場合もあります。人目や周囲の視線を強く意識する環境では、外に出る行為自体が緊張を伴い、心身に大きな負荷がかかります。その結果、準備段階でエネルギーを使い果たし、玄関を出る前に疲れてしまうのです。
外出できるかどうかは、本人の問題ではなく「入口の設計」
外出のしやすさは、その人の根性ではなく、どんな入口が用意されているかで大きく変わります。つまり、外出支援において本当に問われるのは「どう連れ出すか」ではなく、「どう始められる形になっているか」です。
一つ目は、行動の理由が本人の内側にあるかどうかです。誰かに言われたから外に出る状態では、緊張が先に立ち、継続しません。一方で、自分が興味を持っていることや得意なことが起点になると、外出は義務ではなく選択に変わります。行動科学の分野でも、内発的動機づけが継続性を高めることは明らかになっています。
二つ目は、失敗しても戻れる余白があるかどうかです。「毎日通う」「決まった時間に来る」といった条件が最初から強いと、それだけで外出の難易度は跳ね上がります。段階的に関われる設計になっているかどうかは、外出支援の質を見極める大きなポイントです。
三つ目は、外に出た先で何をするのかが具体的に想像できるかです。場所や雰囲気、過ごし方が曖昧なままだと、人は不安を感じやすくなります。逆に、「ここに行ったらこれをする」というイメージがはっきりしていると、外出は現実的な行動として認識されやすくなります。
ゲームが外出支援の“きっかけ”として機能する理由
「外に出る理由が見つからない」という状態が続くと、行動そのものが重くなっていきます。ここで注目したいのが、もともと生活の中にあり、無理なく気持ちが動く“きっかけ”の存在です。ゲームは単なる娯楽として見られがちですが、外出支援の視点で捉え直すと、まったく違う役割を持ち始めます。
ゲームは「行かなきゃ」ではなく「行きたい」を生みやすい
ゲームが外出支援の入口として機能しやすい一番の理由は、行動の動機が外から押しつけられにくい点にあります。人は「やらされている」と感じた瞬間に身構えますが、ゲームには自分から関わりたくなる力があります。
まず、ゲームには目的が自然に内包されています。勝ちたい、上達したい、続きが気になる。こうした感情は説明されなくても湧き上がるもので、「外に出るための理由」を後づけで考える必要がありません。外出が目的になるのではなく、結果として外に出ている状態が生まれます。
次に、集中状態に入りやすい点も大きいです。ゲーム中は意識が目の前の操作や判断に向くため、「今から外に出る」という行為そのものへの不安が薄れやすくなります。これは注意の向きが切り替わることで、緊張や過剰な自己意識が和らぐためです。
そして、評価の基準が明確でシンプルなことも安心材料になります。何ができたか、どこまで進んだかが画面上でわかるため、曖昧な人間関係や空気を読む必要がありません。このわかりやすさが、外出に伴う心理的な負担を大きく下げてくれます。
外出支援として活かすには「遊ばせる」だけでは足りない
一方で、ゲームを使えば自動的に外出支援になるわけではありません。大切なのは、ゲームがどんな位置づけで使われているかです。ここを見誤ると、外出のきっかけにはなっても、その先につながらなくなります。
まず意識したいのは、時間を消費する場になっていないかどうかです。何時間過ごしたかよりも、「今日は何に取り組んだか」「前回と何が変わったか」が感じられる設計になっているかが重要です。積み重なっている感覚がなければ、外出は一過性で終わってしまいます。
次に、関わり方が受け身一辺倒になっていないかという点です。指示されるだけ、用意されたものをこなすだけの環境では、主体性は育ちません。ゲームを通じて、自分で選ぶ、自分で決める場面が用意されているかどうかが、外出支援としての質を左右します。
さらに、ゲームと日常が切り離されていないことも大切です。その場だけ完結する体験ではなく、通うこと、時間を守ること、他者と空間を共有することなど、現実の行動と自然につながっているかどうか。ここが設計されていると、ゲームは外出の“理由”から、社会とつながる“橋渡し”へと役割を変えていきます。
外出支援として意味があるゲーム環境・意味が薄いゲーム環境の違い
ゲームを使った外出支援は、どこで行っても同じ成果が出るわけではありません。実はここに、大きな差が生まれやすいポイントがあります。それは「どんな環境で、どんな関わり方が用意されているか」という点です。表面だけを見ると似ていても、中身の設計次第で外出支援としての価値は大きく変わります。
外出支援として意味があるのは「行動が積み重なる環境」
外出支援として意味を持つゲーム環境には、共通して「今日だけで終わらない」仕組みがあります。来たら終わり、遊んだら解散、ではなく、次につながる感覚が残るかどうかが重要です。
まず、過ごし方に一定のリズムがあることが挙げられます。決まった場所に行き、同じ空間で、同じ流れの中で取り組む。この繰り返しがあることで、外出そのものが特別なイベントではなく、生活の一部として認識されていきます。リズムが生まれると、準備や移動への心理的な負担も少しずつ下がっていきます。
次に、取り組みの中に「前回との差」が感じられる点です。ゲームの結果だけでなく、操作の安定感や集中できた時間など、小さな変化に気づける環境では、自分の中に手応えが残ります。この手応えが、「また行ってみよう」という気持ちを支えます。
そして、その場に役割が生まれることも大きな要素です。勝ち負けや上手さだけで評価されるのではなく、準備をする、片づけをする、場を整えるといった行動が自然に組み込まれていると、外出は単なる参加から関与へと変わります。これが積み重なると、「行く意味」が自分の中で明確になっていきます。
意味が薄くなりやすいのは「その場だけで完結する環境」
一方で、外出支援として効果が出にくいゲーム環境にも特徴があります。それは、体験がその日限りで閉じてしまう場合です。
一つ目は、何をしても評価や振り返りがない状態です。ただ時間を過ごすだけでは、達成感も改善点も見えません。すると、次に行く理由が見つからず、外出が続きにくくなります。
二つ目は、関わり方が一方向になっているケースです。用意されたものを消費するだけの環境では、主体性が育ちにくく、「行かなくても困らない場所」になりがちです。外出支援では、この「困らなさ」が継続を妨げる要因になります。
三つ目は、現実の生活と切り離されていることです。ゲーム中の体験が、その場所を出た瞬間にリセットされてしまうと、外出は非日常のまま終わります。逆に、時間を守る、人と同じ空間で過ごす、自分の行動が周囲に影響する、こうした現実的な要素が含まれていないと、外出支援としての広がりは生まれません。
外出できるようになることと、社会に近づくことは別物
外に出られるようになった。それだけで大きな前進なのは間違いありません。ただ、外出そのものがゴールになってしまうと、そこで成長が止まってしまうこともあります。外出支援を考えるうえで大切なのは、「出られるようになった先に何があるのか」を静かに見据える視点です。
外出はスタートであって、到達点ではない
外出できるようになることと、社会に近づいていくことは、似ているようで別の話です。外に出る行為はあくまで入口であり、そこからどんな経験を重ねるかで意味合いが変わってきます。
まず、外出が習慣化しても、役割や目的がなければ成長実感は生まれにくいという点があります。ただ通うだけの状態が続くと、「行ってはいるけれど、何も変わっていない」という感覚が残りやすくなります。これは本人の努力不足ではなく、環境側に次の段階が用意されていないことが原因です。
次に、人との関わり方が固定されたままになっていないかも重要です。挨拶だけ、最低限のやり取りだけで完結する環境では、社会性が広がりにくくなります。無理に会話を増やす必要はありませんが、関わりの幅が少しずつ変化していく余地があるかどうかが、社会への距離を左右します。
さらに、自分の行動が場に影響していると感じられるかどうかも分かれ目になります。来たか来ていないかだけでなく、自分がどう関わったかによって空間が変わる。そうした感覚が生まれると、外出は単なる移動から、社会参加へと意味を変えていきます。
社会に近づく外出支援には「次の視点」が用意されている
社会に近づいていく外出支援には、最初から完璧を求めない設計があります。今できていることを土台にしながら、視点を少しずつ外へ広げていく考え方です。
一つ目は、取り組みの中に振り返りの要素があることです。うまくいったかどうかではなく、何に集中できたか、どこで疲れたかを言葉にできると、自分の特性が少しずつ見えてきます。この理解が、次の行動を現実的なものにしていきます。
二つ目は、他者と同じ場にいる時間の質が意識されている点です。同じ空間で、それぞれが別のことに取り組んでいても構いません。大切なのは、同時に過ごす経験を重ねることで、社会のリズムに体が慣れていくことです。
三つ目は、将来の選択肢を急いで決めさせないことです。「次はこれを目指そう」と早く答えを出すよりも、「今の延長線に何がありそうか」を一緒に考えられる余白がある環境のほうが、結果的に前に進みやすくなります。社会に近づくとは、無理に背伸びをすることではなく、足元を確かめながら歩幅を広げていくことだからです。
「続けられる外出支援」を見極めるためのチェックポイント
外出支援を探していると、「良さそう」「自分にも合うかも」と感じる場所はいくつも見つかります。けれど実際に大切なのは、最初の印象よりも“続けられるかどうか”です。外出は一度できても、続かなければ生活は変わりません。ここでは、無理なく通い続けられる外出支援かどうかを見極めるための視点を整理します。
「頑張らせる前提」になっていないかを見る
続けられる外出支援の土台には、「頑張らせない設計」があります。やる気を引き出そうとして、最初から負荷をかけすぎると、かえって足が遠のいてしまいます。
まず注目したいのは、通い方に選択肢があるかどうかです。最初から頻度や時間が固定されていると、調子が少し崩れただけで「行けなくなった」という感覚が強まります。自分の状態に合わせて調整できる余地があるかは、継続のしやすさに直結します。
次に、できていない点よりも、できている点に目が向けられているかも重要です。外出支援は評価の場ではありません。小さな変化や安定している部分に気づいてもらえる環境では、「また来よう」という気持ちが自然に育ちます。
そして、無理な目標設定がされていないかも確認したいポイントです。早く結果を出そうとするほど、外出は義務になりがちです。今の状態を肯定しながら進める姿勢があるかどうかが、長く続くかどうかを左右します。
本人の選択が尊重されているかを感じ取る
外出支援が続くかどうかは、「自分で選んでいる」という感覚が持てるかに大きく左右されます。これは小さな違いのようで、実は非常に大きな差を生みます。
一つ目は、活動内容や関わり方に余白があるかどうかです。すべてが決められている環境では、通う意味が薄れていきます。今日はここまで、今日はこれに集中する、といった判断を自分で下せるかどうかが重要です。
二つ目は、意見や違和感を伝えやすい空気があるかです。合わないことを無理に我慢しなくていい場所は、それだけで安心感があります。安心して話せる関係性があると、外出は負担ではなく生活の一部になっていきます。
三つ目は、「続ける」「休む」を自分で決められることです。休むことが失敗扱いされない環境では、再び戻るハードルも下がります。この柔軟さこそが、結果的に外出を長く支える力になります。
まとめ|ゲーム外出支援は「外に出るため」ではなく「前に進むため」の手段

ここまで、「ゲーム 外出支援」という切り口から、外に出られなくなる理由や、ゲームがきっかけとして機能する背景、そして続けられる支援の考え方について整理してきました。最後に大切なことを、改めて言葉にしておきたいと思います。
外出できない今を、否定しなくていい
外に出られない状態が続くと、「このままでいいのだろうか」という焦りが生まれます。でも、その状態は怠けでも失敗でもありません。環境や入口が合っていなかっただけ、ということも多いのです。
外出支援の本質は、無理に背中を押すことではありません。今の自分が動ける範囲から、現実的な一歩を用意すること。その一歩が「外出しなきゃ」ではなく、「これなら行けそう」と思える形であることが、何より重要です。ゲームは、その入口として機能する可能性を持っていますが、それは設計されてこそ意味を持ちます。
「続くかどうか」を軸に考えると、選び方が変わる
支援の形や雰囲気は場所によってさまざまですが、見るべきポイントはシンプルです。それが自分にとって続けられそうかどうか。頑張らされすぎていないか、選択が尊重されているか、今日の外出が次につながりそうか。そうした感覚は、実際に話を聞いたり、場を見たりすることでしかわかりません。
大きな決断をする必要はありません。まずは「話を聞いてみる」「一度見てみる」くらいの距離感で十分です。その小さな行動自体が、すでに前に進んでいる証拠です。
もし今、ゲームをきっかけに外出や社会との関わりを少しずつ取り戻したいと感じているなら、その感覚を大切にしてみてください。無理なく、自分のペースで進める選択肢は、きっとどこかにあります。



